『幼児師匠と弟子心』



『運命』なんて、信じない

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外では戦いが起こっているはずなのに、ここの雰囲気は穏やかなもので。
仙人界でも四季はあったのに、ここは時間が止まってしまったかのように昼も夜もやってこない。だから、もうどれぐらいの時間が経ったのか分からない。
俺が、この────封神台にやって来てから。

『道徳真君』

静寂を壊すようにバサリと羽音がしたかと思えば、軽く地面が振動した。おそらく地面に降りたんだろう。
俺は目を閉じたまま、久し振りの再会である霊獣に声をかけた。

「お前がここまでくるなんて、どういう風の吹きまわしだ?」
『…これで、本当に良かったんですか』

誰かと話すのは久し振りだろうか。話したいと思えば他の『駅』に行けばいいのだろうが───どうしても、行く気にはなれない。
笑顔を浮べることさえ、出来ない。

「…どうしてそう思う?」
『あなた方のしたことは、聞仲に傷を負わせるだけだった』
「…お前は、無駄死にだと思うのか?」
『いいえ。私はあなた方を誇りに思います。ですが───』

相変わらず、その凛とした声は鉄すら突き通すかのようで。
俺の思考すら、突き通す。

『彼が───泣いています』

フ…と目をゆっくりと開ける。そこに映るのは霊獣と、偽りの空。
もう、どれぐらい彼の姿をこの瞳は映していないんだろう。

「…それぐらい、分かっていたさ」

夢を、見る。天化が泣きそうな顔をして、俺の名を呼ぶ夢を。
天化が無意識に俺の天数を知っていたのと同じで、俺も…本当は気付いていたんだろう。
俺が居なくなった後、天化がどれほど悲しむのか。

「だが、それで何になる?天数はもう決まっていた。天数に抗うことなど、出来やしない」
『…まるで分かりきったような口振りですね』
「ああ。……思い知らされたさ」

歩く道は一本しかないのだと。それこそ運命なのだと。
天化に出会ったのも、全ては運命だったのだと。

「……玉麒麟、少し…昔話をしようか」

俺と天化が初めて出逢った、あの日のことを────……





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